【ビジネス】認知負荷理論

仕事の引継ぎや教える際に、新しい情報量が多すぎると把握しきれなくなる事を自分も多く体験してきた。”Tips”のような形式で本が出版されていることも多いけど、”認知負荷”という、人間の認識や情報処理、脳の構造に着目して考えたことはなかった。

今後、一段と発展して体系化されるかもしれないが、自分用にメモ。

※ただの思い付きであるが、将棋においてAIを使うことができる環境はすべての人に平等であるのに、藤井聡太棋士が強いのは、”認知の仕方”に差があるのかもしれないと思った。

 

認知負荷理論とは

  • 認知負荷(Cognitive Load)とは、個人が特定の課題や活動を行う際に、その活動に必要な認知的なリソース(注意力、ワーキングメモリなど)の使用量を指します。つまり、人が情報を処理したり課題に取り組んだりする際に必要な脳の働きの負担を表現する概念です。
  • 認知負荷は、もともとは認知心理学の言葉です。人間の脳にもワーキングメモリのようなものがあり、その容量は限られています。そのメモリ容量を使いすぎてしまい、負荷がかかってしまうような状態のことを認知負荷といいます。
    認知負荷は、課題内在性負荷・課題外在性負荷・学習関連負荷の 3 種類に分類されます。
  • 課題内在性負荷は、課題遂行に関連する負荷であり、学習において考慮すべき要素の数によって定義されています。
  1. 課題外在性負荷は、学習とは関連ない処理が与える負荷です。
  2. 学習関連負荷は、スキーマ構築など学習と関連する負荷です。学習をデザインする人は、認知負荷を考慮し、過度の負荷をかけすぎないようにする必要があります。つまり、一度にあまり多くの情報を与えないような配慮が必要です

 

  • 認知負荷は、ワーキングメモリ(短期記憶)が一度に処理できる情報量に制限があることに基づいています。ワーキングメモリは、認知処理のための一時的な記憶システムです。ワーキングメモリが一度に処理できる情報量には制限があり、その制限を越える量が学習者に与えられた場合、負荷が過剰となり、学習が抑制されると言われています。
  • ワーキングメモリが高いと、認知タスクの処理能力が上がる、仕事や勉強にもコツコツ取り組める、さまざまなことを記憶できる、といったメリットが得られます。しかし、高すぎると多くの情報処理を行うことで疲れてしまうこともあります。
  • ワーキングメモリが低いと、集中力が切れやすくなります。情報を整理できなければ理解するのが困難になるため、興味や関心が薄れてやるべきことに集中できないからです

zenn.dev

 

このような理論とモデルを通じて、人間の認知機能の限界や能力について理解することで、効果的な学習デザインやソフトウェア開発における複雑性に対処する手法を模索することが可能です。

ワーキングメモリのモデルは、視空間スケッチパッド、音韻ループ、中央実行系、エピソードバッファから成り立っています。これらのコンポーネントは認知活動を支え、情報の保持と処理を担当しています。視空間スケッチパッドは視覚情報の処理を担当し、音韻ループは音韻的情報の処理を担当します。中央実行系はこれらのコンポーネントを制御し、エピソードバッファは長期記憶とのインターフェースであり、様々な情報が統合されます。

認知負荷理論は、人間の認知機能の構造と限界に注目し、効果的な学習デザインを考案するための理論です。重要な概念の1つにスキーマがあります。スキーマは学習や経験によって獲得される知識体系であり、関連づけられた知識や概念、手続きのネットワークとして定義されます。スキーマは、覚えた情報を効果的に統合し、応用するための重要な枠組みとなります。

Chase & Simon (1973) の研究は、チェスのプロと初心者における盤面の記憶の実験で、現実にあり得る盤面とランダムな盤面の記憶を比較しました。この研究は、プロが豊かなスキーマを持っているために実際の盤面の記憶において初心者よりも優位に立ったことを示唆しています。

また、チャンキングは複数の情報を1つの単位にまとめることで認知負荷を減らす手法です。スキーマはチャンキングのより複雑なバージョンと見なすことができます。

これらの概念を理解し、それを学習に応用することは、より効果的な学習を促進する上で重要です。生成AIの発展により、プログラムの自動生成などの機能は向上していますが、従来の学習方法を継続することで、自分の長期記憶に豊かなスキーマを構築することができます。

認知負荷理論における認知負荷は、研究が進むにつれて、以下の3つに分類されています。

Intrinsic cognitive load(課題内在的負荷): これは学習対象そのものの複雑さに起因する負荷であり、要素の困難度によって生じます。この負荷は、要素間の相互作用の数に依存します。

Extraneous cognitive load(課題外在的負荷): これは学習に無関係な外的な負荷であり、不必要な認知要求を減らすことに焦点を当てています。この負荷は、教授デザインによって生じる余分な認知要求を指します。

Germane cognitive load(学習関連負荷): これは学習が進行する際に生じる生産的な負荷であり、学習目標の達成に直接関連しています。これには複数の類似した問題に取り組む場合と複数の変化に富んだ問題に取り組む場合が含まれます。

これらの認知負荷は、ワーキングメモリ内で加算的であるとされています。この理論によれば、問題の複雑さによって生じるintrinsic loadと教授デザインや周辺的な要因によって生じるextraneous loadが加算され、ワーキングメモリの残りの容量がgermane loadに割り当てられます。germane loadは学習者の動機づけなども含めた要因によって変動するため、学習者が自らこの負荷に資源を割り当てる必要があります。

このように、認知負荷理論は、extraneous loadを減らし、germane loadを喚起するデザインを行うことが主な関心事です。これによって、効果的な学習環境を構築し、学習者がより効率的に学習できるように支援します。

認知負荷理論の研究は、学習理論や教育工学などの分野で広く活用されています。これは教育者や訓練者が学習者の負荷を最小限に抑え、効果的な学習を促進するための重要な概念です。さらに、コーディングにおける効果を説明するために認知負荷理論を使用するアプローチは、プログラマーや開発者がより効果的なコーディングプラクティスを採用する際の有益な指針を提供します。

 

以上