ChatGPT o1モデルを深く推論させるプロンプト

ChatGPT o1モデルは、従来のモデルを凌駕する高度な推論能力を備え、様々な分野での活用が期待されています。

o1モデルは、複雑な問題に対して、人間のように多角的な視点から深く思考し、より質の高い回答を生成することができます。しかし、その潜在能力を最大限に引き出すためには、適切なプロンプト設計が不可欠です。

本稿では、ChatGPT o1の推論能力を最大限に引き出すためのプロンプト設計について考えます。具体的には、プロンプトの構造、質問の形式、情報の提供方法といった観点から、効果的なプロンプトの設計原則と具体的な例を紹介します。

ChatGPT o1の推論能力

o1は、従来のChatGPTモデルと比較して、以下の点で推論能力が向上しています。

1. 思考の連鎖

o1は、応答する前に問題についてじっくり考えるように訓練されており、複雑なタスクを論理的に処理し、以前のモデルよりも難しい問題を解決することができます。回答を生成する前に、問題を分析し、段階的に思考するプロセスを経ることで、複雑な問題にも対応可能になります。これは、人間が難しい質問に答える前に長時間考えるのと同様であり、「思考の連鎖」を用いて問題を解決しています。強化学習を通じて、思考の連鎖を磨き、使用する戦略を洗練させています。もしo1がプロンプトを与えられた場合、すぐには答えず、次の行動を決定する前に各ステップを推論し、それぞれの情報とその意味を注意深く検討します。必要な一連のステップをすべて考え尽くすまでは、答えを出すことはありません。

2. 高度な論理的思考力

従来のモデルとは異なり、o1は複雑な論理構造を理解し、より正確で整合性のある回答を生成できるようになりました。

3. 多様な視点からの考察

o1は、問題を多角的に分析し、様々な可能性を検討することで、より深い洞察を提供します。特に、問題の条件を広範囲に捉え、曖昧な要素にも柔軟に対応する能力を備えています。例えば、エンターテインメント形式(映画、バンド、テレビ番組など)の多様な可能性を検討しながら、条件に含まれる「未来のリーダー」や「イタリア人との結婚」といった曖昧で解釈の幅が広い部分を多角的に分析することができます。

これらの能力により、o1は数学、コーディング、科学といった分野で高度な問題解決能力を発揮します。特にSTEM分野での深い推論を必要とするタスクに優れており、物理学、化学、生物学の難しいベンチマークタスクにおいて、博士課程の学生と同等の成績を収めています。また、数学とコーディングにも優れており、国際数学オリンピック(IMO)の予選では、GPT-4oが問題の13%しか正解できなかったのに対し、o1モデルは83%の正解率を達成しました。

効果的なプロンプト設計

o1の推論能力を最大限に引き出すためには、以下の3つの観点からプロンプトを設計することが重要です。

1. プロンプトの構造:明確で簡潔な指示

o1は高度な推論能力を持つため、複雑な指示や余計な情報は逆効果になる可能性があります。プロンプトは、シンプルで直接的な表現を用いる方が良いでしょう。

具体的には、以下の点に注意することが重要です。

  • 明確な指示: 曖昧な表現は避け、o1が誤解なく理解できるよう、明確な言葉で指示を記述しましょう。
  • 簡潔な指示: 必要最低限の情報に絞り、冗長な表現や回りくどい言い回しは避けましょう。
  • 具体的な質問: 漠然とした質問ではなく、具体的な質問をすることで、o1はより的確な回答を生成することができます。
  • 文脈の提供: 必要に応じて、質問の背景や関連情報を提供することで、o1の理解を深め、より適切な回答を導き出すことができます。

2. 質問の形式:深い推論を促す質問

o1は、思考力を必要とする質問に対して、その真価を発揮します。例えば、以下のような質問が考えられます。

  • 問題解決型の質問: 「〇〇という問題を解決するにはどうすればよいですか?」
  • 比較・分析型の質問: 「〇〇と〇〇を比較して、それぞれのメリットとデメリットを説明してください。」
  • 創造性を刺激する質問: 「〇〇という状況になったら、どのようなことが起こると思いますか?」
  • 多段階の質問: 複数の質問を組み合わせることで、o1に多段階の思考を促し、より深い分析や考察を促すことができます。

3. 情報の提供方法:必要な情報を事前に提供

質問に関連する情報やデータ、前提条件などを事前に提供することで、o1の推論を支援することができます。

  • 明確な形式で情報を提供: 情報は、箇条書きや表などを用いて、整理された形式で提供することで、o1が理解しやすくなります。
  • 正確な情報提供: o1は提供された情報に基づいて推論を行うため、情報の正確性は非常に重要です。

プロンプトの例

上記の原則に基づいて作成したプロンプトの例を以下に示します。

例1:

100枚のコインを7つの山に分け、それぞれの山に素数枚のコインを入れる必要があります。すべてのコインを使用しなければならない場合、いくつの異なる方法がありますか?

素数は、1より大きい自然数で、2つのより小さい自然数の積ではないものです。
    

例2:

あなたは優秀な建築家です。建物の構造は、地震の多い地域とそうでない地域でどのように異なりますか?それぞれの地域における建築家やエンジニアの課題は何ですか?
    

例3:

自動運転車は、避けられない事故に直面しています。歩行者のグループにぶつかるか、ハンドルを切って壁に衝突し、乗客を死亡させる可能性があるかのどちらかを選択しなければなりません。車のAIはこの決定をどのように行うべきでしょうか?どのような倫理的原則がその選択を導くべきでしょうか?
    

プロンプト改善のための分析

上記のプロンプトをo1に与え、その応答を分析した結果、以下の改善点が見つかりました。

例1:

  • 問題点: コインの分割方法に関する情報や、分割方法の数に関する情報がありませんでした。
  • 改善点: o1は数学的な問題を解く能力が高いと言われていますが、この例では、問題を解決するための十分な情報が提供されていなかった可能性があります。

例2:

  • 問題点: 地震の多い地域とそうでない地域における建物の構造の違いや、それぞれの地域における建築家やエンジニアの課題に関する具体的な情報がありませんでした。
  • 改善点: o1は、与えられた情報に基づいて推論を行うため、より具体的な情報を提供する必要があります。

例3:

  • 問題点: 自動運転車とその倫理的なプログラミングに関する情報がありませんでした。
  • 改善点: o1は倫理的な問題についても推論することができますが、この例では、倫理的な判断を行うための十分な情報が提供されていなかった可能性があります。

結論

ChatGPT o1は、高度な推論能力を備えた強力な言語モデルですが、その能力を最大限に引き出すためには、適切なプロンプト設計が不可欠です。本稿で紹介した設計原則を参考に、プロンプトの構造、質問の形式、情報の提供方法を工夫することで、o1からより質の高い回答を得ることが可能になります。

効果的なプロンプト設計は、o1の潜在能力を引き出し、様々な分野でその活用を促進する上で重要な役割を果たします。例えば、

  • 科学研究: 複雑なデータ分析や仮説生成を支援。
  • ビジネス: 市場トレンドの予測や顧客のニーズ分析に役立つ。
  • 教育: 生徒一人ひとりに合わせた個別指導を提供。

(参考)o1により深い推論を促すプロンプト